たった2つの数が分布全体を語る。平均してどこに落ち着くか、どれだけ揺れるか。
分布表は確率変数 X についてすべてを教えてくれる——取りうるすべての値と、それぞれの確率を。しかし「すべて」は情報過多なことが多い。友人に「そのゲームはやる価値があるか」と聞かれたとき、表を暗唱するのではなく、1〜2個の数で答えるはずだ。X は平均してどこに落ち着くか?それが期待値 E(X)、すなわち確率加重平均——分布全体の重心だ。そしてX は平均の周りをどれだけ激しく揺れるか?それが分散 D(X) とその平方根 σ(標準偏差)だ。2つの分布が同じ中心を持ちながら、かけるリスクの感覚がまったく違うことがある。今日はどちらの数も、分布そのものから誠実に構築し、リスクの重さを測る道具として使おう。
あるゲームを何度も繰り返すと想像してほしい。毎回得られる金額はランダムに変わる。長期的に見ると、1回あたりの平均獲得額はいくらになるだろうか?ある値 xi が全体の pi の割合で現れるなら、多数回のゲームを通じて xi は合計に正確に pi の頻度で貢献する。各値をその出現頻度で重み付けして足し合わせると、長期的な平均が得られる。この加重和には名前がある。
値 x1, x2, …, xn と確率 p1, p2, …, pn を持つ離散確率変数 X に対して、
E(X) = x1p1 + x2p2 + ⋯ + xnpn = Σ xipi。
これが確率加重平均だ。各値はその確率に等しい力で平均を引き寄せる。分布を棒グラフとしてシーソーの上に置いたとき、E(X) はそれが釣り合う1点だ。
公正なサイコロで X = 出た目とすると、各面の確率は 1/6 なので、
E(X) = 1·⅙ + 2·⅙ + 3·⅙ + 4·⅙ + 5·⅙ + 6·⅙ = 21/6 = 3.5.
注目してほしい。3.5 はサイコロの目には存在しない。期待値は重心であって、特定の1回の出目を予測するものではない——多数回の平均は 3.5 に近づくが、実際に 3.5 が出ることはない。結論:E(X) は各値をその確率で重み付けして求める重心であり、分布全体を1つの数で表す。
1, 2, 3, 4 の4値分布。スライダーを動かして小さい値から大きい値へ確率を移すと、緑の支点 E(X) が重みについてくる様子を観察しよう。
X を賞金とする。カジノがルールを変更して、支払額がすべて2倍になり、さらに一律 $1 の手数料が引かれるとしよう。新しい賞金は Y = 2X − 1 だ。新しい平均を求めるために分布を作り直す必要があるか?いや——期待値は線形変換をそのまま透過する。
E(aX + b) = a·E(X) + b。
言葉で言えば:X を a 倍すると平均も a 倍になり、X に b を足すと平均も b だけずれる。各値 xi が a·xi + b になっても確率 pi は変わらないので、Σ(a·xi + b)pi = a·Σxipi + b·Σpi = a·E(X) + b·1 となる。
公正なサイコロは E(X) = 3.5。Y = 2X − 1(目を2倍して1を引く)とすると、
E(Y) = 2·E(X) − 1 = 2·3.5 − 1 = 6 − 1 = 6。
地道に確かめると:Y は 1, 3, 5, 7, 9, 11 の各値をそれぞれ確率 ⅙ でとり、平均は (1+3+5+7+9+11)/6 = 36/6 = 6。近道と一致する。
結論:E(X) が分かれば、賞金の線形変換 aX + b について新しい表を作る必要はない——平均を直接変換すればよい。
公正なサイコロ(E(X) = 3.5)から始める。スケール a とシフト b を変えると、E(aX + b) = a·E(X) + b の値が表示され、変換後の分布を項ごとに計算した結果と照合される。
ここで期待値の真価が発揮される。お祭りの屋台でゲームが開催されている。チケット代を払ってプレイすると、ランダムに賞品が当たる。プレイする価値はあるか?期待値が答えを出す。E(X)(平均獲得額)を計算し、支払った額と比べる。E(X) が価格と等しければゲームは公平——長期的に損得なし。E(X) が小さければ主催者が平均的に得し、大きければプレイヤーに有利だ(そんなゲームは長続きしないが!)。
回転盤が 0.1 の確率で $10、0.3 の確率で $2、0.6 の確率で $0 を支払う。平均支払額は
E(X) = 10·0.1 + 2·0.3 + 0·0.6 = 1 + 0.6 + 0 = $1.60。
チケット代が $2 なら、1回あたりの純期待値は 1.60 − 2 = −$0.40——平均して1回に40セント損する。公平でない。公平なチケット代はちょうど $1.60 だ。
結論:期待賞金がチケット代と等しいときゲームは公平だ。期待値は「プレイすべきか?」という問いを1回の引き算に変えてくれる。
支払表は固定($10 / $2 / $0 の賞品、確率 0.1 / 0.3 / 0.6、E(X) = $1.60)。チケット代をスライドさせると、純期待値 E(X) − 価格が有利(緑)→ 公平 → 損(赤)と変化する。
2つのゲームが同じ期待値を持ちながら、まったく違う感覚をもたらすことがある。ゲームAは常にちょうど $3 を支払う。ゲームBは確率 ½ で $0、確率 ½ で $6 を支払う。どちらも平均 $3 だが、Aは確実で B はコインフリップのギャンブルだ。期待値だけでは区別できない。揺れを表す数が必要だ。
各値が平均からどれだけ離れているかを測る。これが (xi − E) だ。しかし単純にこのずれを平均することはできない——正と負が打ち消し合ってゼロになる(「重心」の意味そのものだ)。そこでまず各ずれを2乗し(2乗は必ず非負)、その2乗を確率で加重平均する。
D(X) = Σ pi(xi − E)²、 かつ σ = √D(X)。
分散 D(X) は平均からの距離の2乗の加重平均だ。2乗があるため単位が扱いにくくなる(ドル²など)。平方根をとると標準偏差 σ が得られ、X と同じ単位(ドル)になる——「平均からの典型的な距離」として直感的に読める。
ゲームA(常に $3):値は確率1で3のみ、ずれは0なので D(X) = 1·(3−3)² = 0、σ = 0。まったく揺れない。
ゲームB($0 か $6、各 ½):E = 3、ずれは −3 と +3 なので
D(X) = ½·(0−3)² + ½·(6−3)² = ½·9 + ½·9 = 9、 σ = √9 = 3。
期待値は同じ $3 だが、ばらつきはまるで違う:σA = 0 対 σB = 3。
結論:分散は2乗されたずれを確率で加重する。その平方根 σ が X の典型的なばらつき幅であり、X と同じ単位で表される。
E(X) は X が実際にとる値である必要はない。サイコロの E(X) = 3.5 だが、3.5 の目は存在しない。期待値は重心であり、予測ではない。
分散は2乗した加重偏差を使う。生のずれを平均してはいけない(打ち消し合ってゼロになる)。確率 pi を忘れてもいけない。正しいのは Σ pi(xi − E)² であり、Σ(xi − E) でも Σ(xi − E)² でもない。
分散も期待値と同様に平行移動とスケーリングに対して扱いやすい性質を持つ——ただし一点だけ違う。純粋な平行移動 b はすべての値を一緒にずらすので、揺れ幅は変わらない:D(X + b) = D(X)。しかし a 倍のスケーリングはすべてのずれを a 倍に引き延ばし、分散はずれを2乗するため a² 倍になる。
D(aX + b) = a²·D(X)、 したがって σ(aX + b) = |a|·σ(X)。
定数 b を加えると中心はずれるが広がりは変わらない。a を掛けると広がりが |a| 倍(標準偏差)または a² 倍(分散)になる。
ではリスクの話に移ろう。2つの投資プランが同じ期待リターン E(X) を持つとする。どちらを選ぶか?揺れが小さい方——分散が小さい方——が同じ平均リターンをより安定して、不快なサプライズを減らして届けてくれる。期待値が同じなら、より小さい σ の方が安全な賭けだ。
プランA:2%、4%、6% のリターンが確率 0.25、0.5、0.25 で発生。 プランB:0%、4%、8% のリターンが同じ確率 0.25、0.5、0.25 で発生。
どちらも E = 2·0.25 + 4·0.5 + 6·0.25 = 4%(B も:0·0.25 + 4·0.5 + 8·0.25 = 4%)。しかし
DA = 0.25·(2−4)² + 0.5·0 + 0.25·(6−4)² = 1 + 0 + 1 = 2 (σA ≈ 1.41%),
DB = 0.25·(0−4)² + 0.5·0 + 0.25·(8−4)² = 4 + 0 + 4 = 8 (σB ≈ 2.83%)。
平均は同じ 4% だが、B の揺れは2倍だ。安定を重視する投資家には、プランAの方が安全な選択だ。
結論:期待値が等しいなら分散が小さい方が勝る——分散はリスクの数学的な名前だ。
どちらも E(X) = 4 の2つのプランを並べて表示。プランBの質量を中心から広げると、琥珀色の ±σ 帯が広がる一方、平均は動かない様子を観察しよう。帯が小さい = より安定。
| 概念 | 公式 | 意味 |
|---|---|---|
| 期待値 E(X) | Σ xipi | 長期的な平均——分布の重心 |
| 線形性 | E(aX + b) = a·E(X) + b | 平行移動とスケーリングはそのまま通る |
| 分散 D(X) | Σ pi(xi − E)² | E(X) 周りの2乗ずれの平均 |
| 標準偏差 σ | √D(X) | 典型的なばらつき幅、X と同じ単位 |
| 分散のスケーリング | D(aX + b) = a²·D(X) | シフトはばらつきを変えない。a 倍は D を a² 倍にする |
| リスク原則 | E が同じなら D が小さい方 | より安定した(安全な)選択 |
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本レッスンでは離散確率変数の2つの要約指標を導入する。期待値 E(X) = Σxipi(確率加重平均・重心)と、分散 D(X) = Σpi(xi − E)² およびその平方根 σ(ばらつきの尺度)だ。CCSS の HSS-MD.A.2・A.3(確率変数の期待値を計算し平均として解釈する)および HSS-MD.B.5 / B.6 / B.7(結果を重み付けし、期待値を使って公平性を評価して意思決定する)に対応する。繰り返し現れる落とし穴は、E(X) が実際にとれる値でなければならないという誤解(サイコロの E = 3.5)と、偏差を2乗せずに、または確率で重み付けせずに分散を計算することだ。次のレッスンでは名前のついた分布——ベルヌーイ、二項、超幾何——と連続正規曲線を学ぶ。